嗜好品はなぜ人生を豊かにする?役に立たないものが今に連れ戻す時間を考えた哲学カフェ(2026/06/13)

嗜好品はなぜ人生を豊かにする?役に立たないものが今に連れ戻す時間を考えた哲学カフェの開催風景

この記事の目次

生活に必要ではないものが、なぜ人生を豊かにするのでしょうか。時間を知るだけなら別の道具で足りるのに、機械式時計の動きを眺めたくなる。夕焼けの色を見ると気持ちがすっとする。日本酒を味わう時間が好きだ。今回の対話は、そんな嗜好品と趣味の話から始まりました。

嗜好品の価値を一つの理由へまとめることはできませんでした。ただ、現在に没頭させること、記憶を重ねること、自分の好みを知ること、役に立つかどうかから離れることなど、いくつもの見方が現れました。

嗜好品が人生を豊かにするのはなぜか

問いを出した人にとっての嗜好品は時計でした。高価さだけを求めているのではなく、自動巻きの機械的な作りや、裏側から見える動きをぼんやり眺めることに惹かれる。安価な時計のベルトを替え、自分で手を加える楽しみも語られました。

ほかにも、日本酒や夕焼けが挙がりました。夕焼けは季節や気温などによって色が違い、オレンジやピンクに見える日もある。その変化を眺めると気持ちがすっとするという話です。そこには、何かを達成するためではない、理屈より先にある好みがありました。

将来ではなく「今」を味わう

対話で出た一つの見方は、嗜好品はそれ自体が目的だから、現在へ意識を向けやすいというものです。お酒を飲みながら遠い将来の味を考えるのではなく、今おいしいと感じる。空を見て、今きれいだと思う。時計の動きを見て、今かっこいいと感じる。

幸せを「足りないものが将来満たされた状態」と定義すると、現在はいつも未完成に見えてしまいます。それに対して嗜好品は、目の前の感覚へ戻るきっかけになります。対話では、このあり方が「今に集中する」という意味でマインドフルネスにも重ねられました。

物に記憶とロマンが重なる

時計には、機能だけでなく思い出も重なっていました。頑張った区切りに買った時計や、二十歳のときに家族から贈られ、修理しながら使っている時計。時間を知る道具という目的を超えて、その人が過ごした時間を思い出させる物になっています。

古い時計を受け継ぐことへのロマンや、家族から譲られた昔の着物を今の感覚で着る話も出ました。現在にはない柄や素材へ価値を感じる。嗜好品が人生を豊かにする背景には、物の機能だけでなく、誰から受け取ったか、どの時期に手にしたかという物語もあります。

好みを通して自分を知る

便利な道具で十分だと思う人がいる一方で、機械式時計に惹かれる人もいます。その違いを言葉にしようとすると、自分はデジタルよりアナログなものが好きなのかもしれない、機械仕掛けや長く残る物にロマンを感じるのかもしれない、といった自己理解が生まれます。

好みには、いつも明確な理由があるとは限りません。なぜ空を見るのが好きなのか。なぜその時計を眺めてしまうのか。説明できない感覚も含めて、自分が何に心を動かされる人なのかを教えてくれます。

役に立つことから離れる自由

対話では、理由を求めない行為と自由を結びつける見方も紹介されました。何かの評価を得るためでも、将来の利益のためでもなく、やりたいからやる。そうした行為には、目的や効率に縛られない時間があります。

もちろん、理由がないことと、人生が豊かになることがそのまま同じだとは決まりません。自由と幸せも別の概念です。それでも、生活のために必要なことだけで一日を埋めず、心が動く余白を持つことは、豊かさを考える手がかりになります。

嗜好品の価値は、答えより体験にある

嗜好品が人生を豊かにするのは、役に立つからではなく、今を味わい、記憶を重ね、自分の好みを確かめる時間を作るからかもしれません。ただし、これは対話で出た複数の見方をつないだ仮説であり、一つの結論ではありません。

なくても生活できるのに、なぜか手放したくないもの。説明できなくても、つい眺めたり、味わったり、触れたりしたくなるもの。あなたにとって、その時間は何を豊かにしているのでしょうか。