今回のメインテーマは、誰もが一度は考えるであろう根源的な問い、「働くってどういうこと?」。4月から新たなスタートを切る新社会人の方から、長年社会の荒波を乗り越えてきたベテランの方まで、様々な世代と経験を持つ参加者が集まり、熱い議論を交わしました。
資本主義の呪縛を超えて:「お金=働く」の真実とは?

カフェの冒頭、まず話題の中心となったのは、現代社会において深く根付いている「働く=お金を稼ぐ」という方程式についてでした。生活を送る上で金銭的な報酬が不可欠であることは否定できません。しかし、本当にそれだけが「働く」ことの全てなのでしょうか?
参加者の一人からは、自身の経験を踏まえ、ボランティア活動のように金銭的な報酬を伴わない活動であっても、社会に貢献し、誰かの役に立っているという実感があれば、それは立派な「働き」ではないかという意見が提起されました。ある国の王子様は、お金を稼ぐのではなく、寄付をする場所を見つけることを「仕事」としているというエピソードも紹介されました。これは、働くことの目的が必ずしも自己の利益追求にあるとは限らないことを示唆しています。
また、伝統芸能の世界に伝わる「気働き(きばたらき)」という言葉も紹介されました。これは、見習い期間などに、直接的な報酬はないものの、先輩の気持ちを汲み取り、率先して行動することで、自身の成長を促し、良好な人間関係を築くという、お金では測れない価値を生み出す「働き」です。このように考えると、「働く」という言葉は、私たちが想像するよりもずっと広範な意味を持っているのかもしれません。
心の奥底を探る:「何のために働くのか?」という問い

議論はさらに深まり、「では、私たちは一体何のために働くのか?」という根源的な問いへと向かいました。参加者それぞれが、自身の仕事に対するモチベーションや、仕事を通して得たいものについて率直に語り合いました。
「生活のため」という現実的な意見はもちろんのこと、「将来、人のために働きたい」という未来志向の意見や、「誰かに感謝されることに喜びを感じる」という人間関係を重視する意見も聞かれました。特に印象的だったのは、新社会人となる参加者の方が抱える、「自分にとって本当に楽しく働けるとはどういうことなのか?」という切実な悩みでした。
この問いに対し、ベテランの参加者からは、既存の枠にとらわれない多様な働き方の可能性が提示されました。会社に雇われるだけでなく、自分の趣味を活かして収入を得る、あるいは、経済的な基盤を築いた上で、あえて労働から離れるという選択肢も、現代社会においては十分に考えられると語られました。
趣味と仕事の境界線:好きなことを「働く」に変える

議論の中で、「趣味」と「仕事」の境界線も曖昧になってきました。趣味として始めた活動が、いつの間にか多くの人の役に立ち、結果として収入に繋がるというケースは少なくありません。例えば、SNSでの情報発信は、最初は個人的な興味から始まることが多いですが、その情報が多くの人の役に立てば、それは社会に価値を提供する「働き」となり得ます。
新社会人となる参加者も、現在趣味で日本語学習に関する情報をSNSで発信しているとのこと。フォロワーが増え、それが何らかの形で収益に繋がる可能性も秘めていると語りました。これは、好きなことを追求する中で、自然と「働く」ことに繋がる可能性を示唆する好例と言えるでしょう。
多様な働き方:雇われることだけが仕事じゃない

「仕事」というと、会社に雇われて働くというイメージが一般的ですが、哲学カフェでは、それ以外の働き方についても活発な意見交換が行われました。フリーランスとして自分のスキルを活かして働く、起業して自分の理想を実現する、あるいは、経済的に自立し、働くという概念から自由になる。現代社会には、様々な働き方が存在します。
ある参加者は、自身の知人が「雇われる側でいると必ず死ぬ気がするから、雇う側に回る」という信念を持っているというエピソードを紹介しました。これは、働き方に対する個人の価値観や、社会との関わり方によって、様々な選択肢があることを示唆しています。
未来への不安と「働く」ことの意義

議論は、未来の働き方や、仕事に対する不安にも及びました。AI技術の進化や社会情勢の変化により、これまで安定していた仕事がなくなる可能性も指摘される中で、「自分の頭を使う能力が衰えたらどうなるのか」「体力的に厳しくなったら今の仕事を続けられるのか」といった、切実な不安の声も聞かれました。
このような未来への不安に対して、ある参加者は、自身の経験に基づき、「外的要因で仕事がなくなったとしても、自分自身が変わらなければ、生活水準を落とすなどして何とか生きていける」と語りました。一方で、「事故や病気など、自分自身の変化によって仕事が続けられなくなることの方が心配だ」という意見もあり、参加者それぞれの価値観や不安の対象が異なることが浮き彫りになりました。
「働く」をより深く理解するために:8つの視点

議論の終盤には、「働く」という概念をより深く理解するためのヒントとして、「8つのゴール」という考え方が改めて紹介されました。人生における目標を「職業」「ファイナンス」「健康」「人間関係」「学習」「趣味」「精神性」「社会貢献」の8つの分野に分け、それぞれのゴールを設定することで、バランスの取れた人生を送ることを目指すというものです。
特に重要なのは、「職業」と「ファイナンス」のゴールを切り分けて考えること。これにより、お金のためだけに働くのではなく、本当に自分がやりたいこと、社会に提供したい価値を見つけることができるかもしれません。たとえ無報酬であっても、自分が「これは自分の職業だ」と信じることができれば、それは立派な「働き」なのです。
まとめ:あなたにとって「働く」とは何ですか?

今回の哲学カフェでは、「働く」という一見当たり前の行為について、多角的な視点から深く掘り下げることができました。お金のため、生活のため、自己実現のため、社会貢献のため…。働く理由は人それぞれであり、その形もまた多様です。
新社会人としてこれから社会に出る方も、日々の仕事に追われている方も、あるいは、すでにリタイアされた方も、この機会に「働く」ということについて、改めてじっくりと考えてみてはいかがでしょうか。今回の議論が、あなたにとって「働く」とは何かを見つめ直す、ささやかなきっかけとなれば幸いです。