「好きなことを仕事にできる時代」「転職も副業も自由な時代」。
私たちは今、かつてないほど多くの選択肢を持っています。しかし、選択肢が多いことは、本当に私たちを自由にしているのでしょうか?
今回の哲学カフェのテーマは、ズバリ「現代の自由と不自由」。
きっかけは、ある参加者の方の「やりたいことはあるけれど、今の環境を変えるのが怖くて動けない」という率直な吐露から始まりました。そこから対話は、心理学的なバイアス、仕事への飽き、さらには脳と食事の関係にまで発展。その白熱した議論の様子をレポートします。
現代における「自由」のパラドックス
冒頭、話題の中心となったのは「物理的には自由なのに、精神的には不自由を感じている」という現代特有の感覚でした。
「やらない」を選択しているのは自分?
今の仕事に対して「どうしてもこれがやりたい!」というポジティブな動機があるわけではない。でも、生活のためには働かなければならない。一方で、心の中には「本当はこういうことをやってみたい」という種がある。
そんな状況を友人に相談すると、こんな言葉が返ってくるそうです。
「嫌なら辞めればいいじゃん。稼ぐ方法なんていくらでもあるんだから。
今の時代、自由なのにやらないのは、あなたの心の弱さだよ」
この言葉に、ドキッとする方は多いのではないでしょうか。
「やろうと思えばやれる自由な環境」にいるのに、「やらない選択」をしている自分。そこに対する自己嫌悪や閉塞感。
参加者からは、「やりたい自由はあるけれど、実際にはやれない。精神的な自由が実は存在していないのではないか?」という鋭い問いが投げかけられました。
立ちはだかる「現状維持バイアス」の壁
なぜ私たちは、変化を望みながらも足踏みをしてしまうのでしょうか。
対話の中で挙がったキーワードが「現状維持バイアス」です。
人間には本能的に「変化」を「リスク」と捉え、現在の状況を維持しようとする心理作用があります。たとえ今の環境に不満があっても、未知の領域へ飛び込むよりは、住み慣れた今の場所に留まる方が脳にとっては「安全」で「合理的」だと判断されてしまうのです。
- 今のままでも食べてはいける(生存の保証)
- 新しい挑戦をして失敗したらどうするのか(損失回避)
- 今の居心地も決して悪くはない(コンフォートゾーン)
こうした無意識のブレーキが、「変わりたい気持ち」よりも強く働いてしまう。つまり、不自由を感じている正体の一部は、社会の仕組みではなく、私たちの脳の防衛本能にあるのかもしれません。
仕事と飽き、そして自己実現のバランス
話題は次第に、「自由な働き方」や「キャリアの築き方」へと移っていきました。
「飽きる」ことはプロフェッショナルの証?
「今の仕事に飽きてきている」という悩みに対し、非常に興味深い視点が提示されました。
「仕事は、飽きてからが一番稼げる」
どういうことでしょうか?
仕事に「飽きる」ということは、その業務が自分の中で無意識レベルで処理できるようになった状態、つまりスキルが身体化された状態を指します。これはプロフェッショナルとして高いパフォーマンスを、低いエネルギーコストで出せるようになった証拠でもあります。
しかし、クリエイティブな欲求を持つ人ほど、この「安定した状態」を退屈に感じ、「新しい刺激(=自由)」を求めてしまう。ここにジレンマがあります。
ライスワークとライフワークを分ける発想
そこで議論されたのが、仕事を2つの軸で捉える考え方です。
- ライスワーク(Rice-work): ご飯を食べるため、生活の基盤を守るための仕事。飽きていても効率よくこなせるなら、それは優秀な「資金源」となる。
- ライフワーク(Life-work): 自分の情熱や生きがいを感じる活動。金銭的なリターンがすぐになくても、精神的な充足(自由)が得られるもの。
「今の仕事を辞めて、やりたいこと一本で食べていく」という0か100かの極端な選択をする必要はありません。
安定したライスワークで生活の安全基地を確保しつつ(不自由を受け入れつつ)、余白の時間でライフワークに情熱を注ぐ(自由を行使する)。このハイブリッドな生き方こそが、現代における賢い「自由」の形ではないか、という意見に多くの共感が集まりました。
思考の自由を支える「身体」の話
対話はさらに深まり、意外な方向へ展開しました。
それは、「思考の自由度は、身体の状態に依存しているのではないか?」という仮説です。
「脳の栄養不足」がネガティブ思考を作る
「どうせ自分なんて…」「失敗したらどうしよう…」
こうしたネガティブな思考ループや不安感は、実は性格の問題ではなく、単なる栄養不足である可能性が指摘されました。
例えば、心の安定に関わる神経伝達物質「セロトニン」。これを作るためには、材料となるアミノ酸(タンパク質)や、合成を助ける鉄・亜鉛などのミネラルが不可欠です。
しかし、忙しい現代人は手軽なコンビニ食や加工食品で済ませがち。これでは脳が必要とする材料が枯渇してしまいます。
「脳の40%以上(水分除く)は脂質でできている」という話も印象的でした。
質の悪い油を摂取し続ければ、脳の神経細胞膜の質が低下し、情報の伝達がスムーズにいかなくなる。結果として、思考が鈍り、意欲が湧かず、現状を打開するエネルギーが出なくなる。
「食事を変えれば、マインドセットが変わる」
精神的な自由を手に入れるためには、まずその土台となる「身体(ハードウェア)」をメンテナンスする必要があるという視点は、多くの参加者にとって盲点だったようです。
まとめ:現代における「本当の自由」とは
今回の「現代の自由と不自由」を巡る対話を通じて、いくつかの重要な気づきが得られました。
1. 不自由の正体は「思い込み」かもしれない
「失敗してはいけない」「一つのことを続けなければいけない」「完璧でなければならない」。
私たちが感じる不自由さの多くは、外部からの強制ではなく、自分自身が作り出した「見えない檻(マインドセット)」によるものかもしれません。
ある参加者が紹介してくれた「1つのことを極めるタイプもいれば、8個のことを同時にやって相乗効果を生むタイプもいる」という話は、まさにこの檻を壊すヒントでした。自分の性質に合ったやり方を自分で選ぶこと。それが自由への第一歩です。
2. 選択できる自分を作る(心身のマネジメント)
どんなに環境が自由でも、それを選ぶための気力や体力がなければ、私たちは動けません。
食事を整え、睡眠をとり、脳のパフォーマンスを正常化すること。生活習慣という極めて現実的なアプローチが、実は最も確実に自由度を高める方法だといえます。
3. 結論:自由とは「自ら由(よ)し」とすること
議論の最後、このような結論に至りました。
自由とは、何にも縛られない状態のことではなく、
現実の制約の中で、自分が「これだ」と思えるものを自らの意思で選び取っている感覚のこと。
「やらされている」と感じれば、それは不自由。
「自分で選んでやっている」と思えれば、たとえ困難な道でもそれは自由です。
私たちの周りには、すでに十分な「自由の種」があります。
それを芽吹かせるか、枯らせてしまうかは、日々の小さな選択(思考の癖や食事の選び方)にかかっているのかもしれません。
次回の哲学カフェについて
私たちのコミュニティでは、このように正解のない問いについて、肩書きを外してフラットに語り合っています。
モヤモヤしていること、誰かに聞いてみたいこと、ただ話してスッキリしたいこと。どんな動機でも構いません。
「自分の思考の癖(不自由)」に気づき、「新しい視点(自由)」を持ち帰る場所。
次回の開催でお会いできることを楽しみにしています。

