「自分らしい人生を生きたい」
「本当にやりたいことを見つけたい」
そう願いながらも、「何が自分にとっての正解なのか分からない」「やりたいことが見つからなくて焦っている」…そんなモヤモヤを抱えていませんか?
先日開催した哲学カフェでは、まさにこの「自分らしい人生」や「やりたいこと」をテーマに、参加者の皆さんと深い対話の時間を持ちました。
キャリアに悩む方、学生時代を振り返る方、すでに好きなことを仕事にしている方。さまざまな立場の人々が集まり、率直な言葉が交わされた中で見えてきたのは、私たちが無意識に探してしまう「正解」という幻想と、これからを生きるために必要な「納得解」という新しい視点でした。
この記事では、当日の活発な議論や印象的なエピソードを再構成し、「自分らしい人生」を歩むためのヒントをお届けします。
「やりたいこと」が見つからない… “正解”を探してしまう私たち
カフェの序盤、話題の中心となったのは「やりたいことが見つからない」という悩みでした。特に、学生時代の進路選択や、社会人になってからのキャリアについて、多くの方が「迷い」を経験していることが分かりました。
「学生時代は、どんな職業についても生きていけるようにと、結局やりたいものではなく『潰しが効きそうな』学部を選んだ」
「今、IT企業でスキルを学べているし、現状に不満はない。でも、心の底から『これがやりたい』というものが昔から見つからないまま来ている気がする」
なぜ私たちは、これほどまでに「やりたいこと」や「正解」にこだわってしまうのでしょうか。
かつて存在した「幸せのテンプレート」
当日の議論の中で、主催者からこんなスライドが紹介されました。(※当日は時間の都合で省略された部分ですが、まさに今回のテーマの核心でした)
「昔は“正解”があった時代だった」
例えば、戦争が終わってからの高度経済成長期。私たちの親世代や祖父母世代が生きてきた時代は、「いい大学を出て、いい会社に入って、終身雇用で勤め上げれば幸せになれる」という、比較的明確な「幸せのテンプレート(正解)」が存在していました。
しかし、現代はどうでしょう。終身雇用は崩壊し、働き方も価値観も多様化しました。かつてのような“絶対的な正解”は、もはやどこにもありません。
私たちは「正解がない時代」を生きているにもかかわらず、「正解がある時代」を生きてきた親世代の価値観や、「どこかに唯一の正解があるはずだ」という古いOS(オペレーティングシステム)を引きずってしまっているのかもしれません。
「これで合ってる?」と判断してしまう癖
ある参加者は、こんな本音を語ってくれました。
「とりあえず何事もやってはみるんです。でも、心の底から楽しいと感じるよりも先に、『これ、合ってるのかな?』『本当にやりたいことなのかな?』という疑問が先に出てきてしまう。だから楽しめていないのかもしれない」
「直感で選んでみても、『やっぱりこれじゃないかも』と瞑想してしまう」
この感覚、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。目の前のことに没頭する前に、「正解かどうか」をジャッジしてしまう。この“判断の癖”こそが、私たちが「自分らしい人生」を歩むのを難しくしている大きな要因の一つかもしれません。
鍵は「正解」ではなく「納得解」― 哲学カフェで見つけた視点
「正解」が見つからないなら、私たちはどうすればいいのか。対話は次のステップへと進みます。
キーワードは「納得解(なっとくかい)」。
これは、哲学カフェの主催者が大切にしている概念です。 「納得解」とは、文字通り「自分が納得した答え」のこと。唯一絶対の「正解」を探すのではなく、多様な価値観の中で、対話を通して「自分にとっての納得できる答え」を見つけていく。それこそが、「正解のない時代」を生きる私たちに必要な姿勢だというのです。
「どれが正解か?」ではなく「どれを正解にするか」
この「納得解」という視点に、参加者からも共感の声が上がります。
「大学を選ぶときも、職場を選ぶときも、『どっちが正解か』ってすごく悩む。親からは『そんなの入ってみなきゃわからない』と言われるけど、どうしても正解を選びたくなってしまう」
「でも、よく考えたら、選ばなかった方の道(別の大学や別の会社)を経験することはできない。だとしたら、自分が選んで入ったところを、自分で『ここにしてよかった』と思えるように努力する。そうやって“自分で正解にしていく”しかないのかもしれない」
この「正解を探す」から「自分で正解にしていく」という発想の転換。これこそが、「納得解」の第一歩です。
「その時々で状況も変わるし、最初に思っていたゴールと違ってもいい。途中で『これでいいのか?』と振り返りながら調整していけばいい。失敗だったとしても、後から『あの経験があってよかった』と思えたら、それはもう“正解”なんじゃないか」
対話を通じて、参加者の皆さんの表情が少しずつ晴れていくのが分かりました。
「自分らしい人生」を歩むヒント:参加者の対話から
では、具体的に「自分で正解にしていく」ためには、どんな行動や心構えが必要なのでしょうか。対話の中で挙がった、具体的なエピソードをご紹介します。
ヒント1:とにかく「続けてみる」力
ある参加者は、学生時代にカンボジアへ2ヶ月間のボランティアに行った経験を話してくれました。
「正直、途中で『これで本当にいいのかな?』と思ったこともありました。でも、最初から往復の飛行機チケットを買ってしまっていたから、途中で帰れなかったんです(笑)」
結果的に、2ヶ月間やり遂げたことが、その後の人生観に大きく影響したといいます。
「もし片道切符だったら、途中で挫折していたかもしれない。ある意味、自分をそういう環境に置いて、とにかく最後まで続けてみた。そうしたら、全然関係ないと思っていたところで、次の道が開けたりする。7年目になりますが、続けていればまた次につながると感じています」
「これが正解か?」と判断するのを一旦保留にして、「今、判断しなくてもいい」と決め、目の前のことを続けてみる。その“継続”こそが、未来の「納得解」につながるのかもしれません。
ヒント2:手段は問わない。「うまくいくまでやる」という覚悟
独立して10年になるという自営業の参加者からは、こんな力強い言葉が。
「独立したての頃は、『どの手段(ノウハウ)を選んだらうまくいくか』ばかり考えていました。でも、世の中を見渡してみると、結局どの手段でもうまくいってる人はいるんです」
「そこで分かったのは、手段はどれでもいい。ただ、“うまくいくまでやった人”が、うまくいっているだけだ、ということ。だから、自分は『3年間はこれをやる』と決めて、とにかくやり切るようにしています」
これもまた、「選んだ道を正解にする」という覚悟の一つの形です。一つに絞る必要もなく、同時に5個でも10個でもやってみて、どれがヒットするか試してみる。それくらいの自由さでいいのではないか、という意見も出ました。
ヒント3:「自分軸」で楽しむことの大切さ
「やりたいこと」というと、つい仕事やキャリアに結びつけて考えがちですが、対話はもっと身近な「好き」にも及びました。
「家でギターを弾きながら歌うのが好き。一人の時間にやるのが一番いい」 「サッカー観戦が好き。浦和に住んでいるが、あの熱狂はすごい。何万人もの人が同じものを願っている空間がたまらない」
仕事とは直接関係なくても、自分が心から楽しいと思えること、夢中になれること。そうした時間を持つことが、「自分らしい人生」の充実度を高めてくれるのは間違いありません。
自分らしく生きる土台とは? 訪問看護師が見た「人生のリアル」
議論が深まる中で、非常に重要な視点が提供されました。それは「健康」と「信じるもの」の存在です。
なぜ「健康」が最優先なのか?
訪問看護師として働く参加者が、日々の現場で感じているリアルを共有してくれました。
「昔、X(旧Twitter)で『資産が50億円あるおじいちゃんが、寝たきりで何もできず、50億払うから誰かと身体を代わってほしい』と呟いていたのを見たことがある」
ハッとするエピソードです。私たちは何のためにお金を稼ぎ、キャリアを築くのか。
「やりたいことがあっても、健康じゃなかったら何もできない」
この当たり前の事実に、改めて気づかされます。「自分らしい人生」を追求するあまり、健康を害してしまっては本末転倒です。食事、睡眠、運動。その土台があってこそ、私たちは「やりたいこと」にエネルギーを注ぐことができます。
「ついついマクドナルドに入っちゃう」「自分のためだけにご飯を作るのが面倒で適当になってしまう」といった人間らしい(?)告白もありましたが、まずは健康が第一である、という点は全員の共通認識となりました。
人は「信じるもの」があるから強くなれる
さらに、訪問看護師の参加者は、終末期医療の現場や様々な人のご自宅に伺う中で見えてきた「生き方」について、興味深い視点を投げかけます。
「いろんな人の家を見ていると、その人の生き方が見えてくる」
「印象的なのは、何かしらの宗教に入っている方や、自分なりの哲学を持っている方は、死に対する不安やうつ傾向が、そうでない人に比べて低いように感じることです」
これは、「信じるものがあるから強くなれる」ということです。
「嫌なことがあっても、『これは自分が試されているステップだ』と解釈できる。そういう考え方のパッケージを持っているかどうかは大きい」
宗教でなくても、哲学でも、あるいは自分の好きなコミュニティ(サッカーチームの応援など)でもいい。自分を支えてくれる「何か」を持つこと。それもまた、「自分らしい人生」を力強く歩むための支えとなるのです。
まとめ:あなたにとっての「納得解」を見つける旅へ
今回の哲学カフェは、「やりたいことが見つからない」という悩みを入り口に、「自分らしい人生」とは何か、深く掘り下げる時間となりました。
導き出されたのは、「どこかにある唯一の“正解”」を探すのではなく、「自分が選んだ道を“正解”にしていく」という「納得解」の考え方でした。
- 目の前のことを、まずは続けてみる。
 - うまくいくまで、やり方を工夫しながらやり切ってみる。
 - そして何より、心身ともに「健康」であるという土台を大切にする。
 - 自分を支えてくれる「哲学」や「コミュニティ」を持つ。
 
対話の最後、最初に「迷っている」と話していた参加者の方は、こう締めくくってくれました。
「“自分なりの答えを積み上げていく”ということが分かりました。それが答えになっていくんだと、しっくり来た。今日、ここに来て、次に進めそうな気がします」
哲学カフェは、答えを一つに決める場所ではありません。様々な人の視点に触れ、対話を通して、自分だけの「納得解」を見つけていく場所です。
あなたも、私たちと一緒に「自分らしい人生」について、対話してみませんか?