「MBTIで人を決めつけていない?」性格診断の本質を問う(2025/12/06)

この記事の目次

MBTI診断をめぐる対話──便利さと危うさの狭間で

「あなたのMBTIは何ですか?」

最近、初対面の場でこんな問いかけを耳にすることが増えました。16種類の性格タイプで人を分類するMBTI診断は、今や若い世代を中心に自己紹介の定番ツールとなっています。しかし、その便利さの裏側には、見過ごせない問題も潜んでいるのではないか──。

そんな問いを起点に、ある朝活イベントで交わされた対話は、予想以上に深く、本質的なものになりました。参加者たちは「性格診断とは何か」「ラベリングは私たちに何をもたらすのか」という哲学的なテーマに向き合い、それぞれの体験と洞察を持ち寄りました。

本記事では、その対話の内容を再構成し、MBTI診断という現象を通じて見えてきた現代社会のコミュニケーションの姿をお届けします。

「MBTIでしか会話が始まらない」──ある参加者の違和感

イベントの口火を切ったのは、20代前半の参加者からの率直な問題提起でした。

「最近、どこに行ってもMBTIの話ばかりなんです。初対面の人と会うと、まずMBTIを聞かれる。デートでも、飲み会でも、そればかり。その人自身を見ているんじゃなくて、MBTIのキャラクターを見ているような気がして……」

彼の言葉には、現代の若者が抱える葛藤が凝縮されていました。性格診断は便利なコミュニケーションツールである一方で、表面的な会話で終わってしまうリスクをはらんでいます。本来、人と人が深く理解し合うプロセスは、時間をかけた対話の中で育まれるもの。しかし、MBTIという”フィルター”を通すことで、その機会が失われているのではないか──彼の違和感は、多くの参加者に共鳴しました。

ラベリングが生む「思考停止」

別の参加者は、こう指摘します。

「MBTIに限らず、血液型でも星座でも、人は何かのラベルで相手を理解したがる。それ自体は悪いことじゃない。でも、『あなたはINFJだから〇〇だよね』って決めつけられると、『いや、そうじゃないこともあるけど……』って思っても言いにくい空気がある」

ラベリングによって生まれる「分かった気」は、時に相手を固定化し、変化や多面性を見えなくしてしまいます。ある参加者が紹介した興味深い事例があります。

血液型による性格診断には科学的根拠がないとされていますが、ある統計調査では、52歳以下の世代に限っては、血液型と年収に相関が見られたというのです。なぜか?答えは「思い込み」でした。「B型は大雑把」というステレオタイプが社会に広まった結果、B型の人々が無意識にそのイメージに沿った行動を取り、結果的に統計上の差が生まれたというのです。

つまり、ラベルは自己実現的予言になりうる。MBTI診断も同様に、「私はINTPだから論理的」と思い込むことで、本当にそのような行動パターンを強化してしまう可能性があります。

それでもMBTI診断が支持される理由

では、なぜこれほどまでにMBTI診断は広まったのでしょうか。参加者たちは、その背景にある社会構造に目を向けました。

情報過多の時代における「スクリーニング」の必要性

「今の社会って、接する人の数が昔とは比較にならないほど多い。マッチングアプリ、SNS、職場……。全員と深く関わることは物理的に不可能だから、どこかでスクリーニングが必要になる」

ある参加者のこの指摘は、核心を突いていました。MBTI診断は、膨大な選択肢の中から「合いそうな人」を効率的に見つけるためのフィルタリングツールとして機能しているのです。

「200色のグラデーションから選ぶより、白と黒で分けた方が選びやすい」──この発想は、現代社会の合理性そのものです。MBTIの4つの軸(E/I、S/N、T/F、J/P)は、複雑な人間性をシンプルに整理し、判断コストを下げる役割を果たしています。

「N」ばかりが集まる理由

興味深いことに、このイベントの参加者アンケートでは、95%以上がMBTIの2文字目が「N(直観型)」だったといいます。Nタイプは抽象的な対話や未来志向の会話を好む傾向があり、こうした哲学的なテーマを扱うイベントには自然とNタイプが集まりやすいのです。

「逆に言えば、S(感覚型)の人はこういう場には来にくい。MBTIは『誰と集まるか』を決める装置にもなっている」

性格診断は、単なる自己理解ツールではなく、コミュニティ形成の基準としても機能しているのです。

本当に使いこなせているか?──MBTIとの向き合い方

では、私たちはMBTI診断とどう向き合えばよいのでしょうか。対話の中で、参加者たちは建設的な活用法について語り合いました。

「比較対象」として使う

「僕はMBTIを切り口として使っている。初対面の人がINFJだと分かったら、『あ、この人はINFJなんだ』と思って接する。でも、『あれ、ちょっとINFJっぽくないな』と感じることもある。そうやって、その人の個性がより鮮明に見えてくる

この参加者の使い方は、MBTIを絶対的な基準としてではなく、相対的な参照点として活用する姿勢です。診断結果はあくまで「仮説」であり、対話を通じて修正していくものだという柔軟性が感じられます。