「もっとお金があれば幸せになれるはず」「でも、いくら稼げば満足できるんだろう?」
ふとそんな疑問を抱いたことはありませんか?
今回の哲学カフェのテーマは、直球で「お金と幸せ」。
きっかけは、ある参加者の方の「初任給の喜び」にまつわるエピソードでした。初めて手にしたお給料の感動は、なぜ次第に薄れ、「もっと欲しい」という渇望に変わってしまうのでしょうか?
今回のレポートでは、経済学的な視点から個人の生き方、さらには親子関係に至るまで、多角的に展開された対話の模様をお届けします。
年収800万円は幸福のピーク?「限界効用」の壁
対話の口火を切ったのは、アルバイト経験からの素朴な実感でした。
「最初のお給料はすごく嬉しかったのに、金額が増えてもだんだん喜びが薄れていって……。お金の欲望って際限がないなと感じたんです。じゃあ、一体いくら手にしたら本当に幸せになれるんだろう?って」
ここから話題は、よく耳にする「年収800万円説(幸福度の飽和点)」へと展開しました。
- お金がない状態:「不幸」を回避できない(衣食住の不安など)。
- ある程度ある状態:選択肢が増え、自由度が高まる。
- 一定ラインを超えた状態:幸福度の上昇カーブが緩やかになる(限界効用逓減の法則)。
参加者からは、「お金があっても幸せとは限らないが、お金がないと不幸になる確率は高い」という、非常にリアリティのある意見が出されました。
お金は、不幸を防ぐための「土台」としては機能しますが、それ自体が自動的に「幸せ」を連れてくるわけではないのかもしれません。
「比較」が貧しさを生む?相対的貧困とSNS時代の苦悩
議論が深まる中で見えてきたのは、「他人との比較」というキーワードです。
「月収10万円でも、周囲が5万円なら『自分は豊かだ』と感じるかもしれない。でも、周囲がみんな年収数千万円なら『自分はなんて惨めなんだ』と感じてしまう」
現代はSNSを開けば、他人のキラキラした生活が嫌でも目に入ってきます。たとえ自分にとって十分な暮らしをしていても、他者と比較した瞬間に「足りない」という欠乏感が生まれてしまう。
ある参加者が口にした「お金は感情の増幅装置である」という言葉がとても印象的でした。
- 元々幸せを感じ上手な人は、お金でさらに選択肢を広げられる。
- 不安やコンプレックスが強い人は、お金を持つことで「もっと稼がなきゃ」「失うのが怖い」という感情が増幅される。
つまり、お金そのものの多寡よりも、「自分の心のフィルター(マインドセット)」が幸福度を決定づけているのです。
親の価値観 vs 自分の幸せ。「正解」の呪縛から逃れるには
対話は後半、より個人的で深いテーマへと移行していきました。
それは、「親が望む幸せ(正解のルート)」と「自分が感じる幸せ」のズレについてです。
多くの若者が、親世代の価値観である「大企業への就職」「安定した収入」「平均的な結婚」といった“社会的な正解”と、自分の本音が乖離していることに悩んでいました。
「親は『あなたのため』を思って安定した道を勧めてくれる。でも、それは親にとっての正解であって、私の幸せとは違うかもしれない」
この葛藤に対して、会場からは温かくも力強いアドバイスが飛び交いました。
物理的距離と精神的自立
「親と価値観が合わないなら、物理的に距離を置くのも一つの愛」という意見には、多くの共感が集まりました。
親の期待に応えるために自分の人生を消費するのではなく、「自分で決めて、自分で責任を取る」ことこそが、本当の意味での自立であり、最終的には親を安心させることにも繋がるのかもしれません。
消費から「創造」へ。自分だけのモノサシを持つ
最後に話題に上ったのは、「創作活動」への関心でした。
小説を書くこと、物語を作ること、歌うこと。
お金を使って何かを消費する喜びも大切ですが、自分の中から何かを生み出すプロセスには、他者との比較では測れない「絶対的な充実感」があります。
「お金と幸せ」というテーマから始まりましたが、最終的な着地点は「自分にとっての快・不快を理解し、自分軸で生きること」でした。
今回の対話からの気づき(まとめ)
- 欲望の性質を知る:お金の喜びには「慣れ」が来ることを前提にライフプランを考える。
- 比較の罠に気づく:「隣の芝生」を見るのをやめ、昨日の自分と比較する。
- 自立への一歩:親や社会の「正解」を一度疑い、自分の「納得」を優先する。
- 創造の喜び:消費以外の方法で心を満たす手段(趣味や創作)を持つ。
今回の哲学カフェも、正解のない問いに対して、それぞれの実体験を持ち寄りながら深く思考する時間となりました。
参加者の皆さんが、会場を出る頃には少しだけ肩の荷が下り、自分の人生を愛おしく感じられていれば幸いです。
次回の開催について
私たちは定期的に、こうした「答えのない問い」について語り合う場を持っています。
思考の整理をしたい方、モヤモヤを言語化したい方は、ぜひお気軽にご参加ください。


