「社会人になってから、新しい友達がまったくできないんです……」
そんな切実な悩みから始まった、今回の哲学カフェ。職場と家の往復で1日が終わる毎日。学生時代のように自然と毎日顔を合わせる「教室」のような場所はもうありません。
今回の開催レポートでは、多くの社会人が抱える「大人の友達作り」というテーマについて、参加者同士で語り合った深い対話の内容をお届けします。単なるハウツーではなく、「そもそも友達とは何か?」という定義から見直すことで、これからの人間関係のヒントが見えてきました。
1. 社会人2年目のリアルな孤独感
今回のテーマ提供者は、社会人2年目の男性。「仕事は忙しく、帰宅は23時。翌朝7時には家を出る」というハードな生活を送る中で、ふと気づいたそうです。
「職場には利害関係がある上司や後輩しかいない。マッチングアプリやSNSで会っても、関係が希薄ですぐに切れてしまう。このままでは孤独になってしまうのではないか?」
この問いかけに、多くの参加者が頷きました。学生時代は「教室」という強制的なコミュニティがあり、嫌でも毎日顔を合わせる中で関係が育まれました。しかし、社会に出るとその枠組みが外れます。
自分から能動的に動かなければ、誰とも繋がれない。けれど、動くための時間も気力も残っていない。このジレンマこそが、社会人の友達作りを難しくしている根本原因のようです。
2. 「友達」と「仲間」の違いとは?
対話はまず、「そもそも友達って何だろう?」という定義の話へと進みました。参加者からは、人間関係を以下の4つの段階に分ける興味深い定義が出されました。
- 知人:顔と名前を知っている程度。
- 友人(友達):利害関係がなく、価値観がある程度合い、一緒にいて楽しい人。
- 仲間:必ずしも価値観が合うわけではないが、「共通の目的」に向かって協力する関係(仕事やプロジェクトなど)。
- 親友:成功体験だけでなく、辛いストーリーや過去の痛みも共有している深い関係。
「50歳で友達作りは無理」説
ある参加者が紹介してくれた、人生の先輩(50代男性)の言葉が会場に衝撃を与えました。
「社会人になったら、究極的に『友達』はできない。できるのは『仲間』だけだ」
その説によると、社会人生活のメインである20代〜60代の間は、仕事やプロジェクトを通じて利害や目的を共有する「仲間」を作る時期。もし定年後に利害がなくなっても関係が続いていれば、そこで初めて「友達」に戻れるのではないか、というのです。
確かに、職場の人とは「仕事」という共通目的があるうちは仲が良いですが、転職や退職で環境が変わると疎遠になることも少なくありません。これは、私たちが求めているのが「心の繋がり(友達)」なのか、「目的の共有(仲間)」なのかを整理する良い視点かもしれません。
3. 大人が「親友」を作るための2つの条件
では、大人はもう新しい親友を作れないのでしょうか? 対話を進める中で、関係性を深めるための2つの鍵が見えてきました。
① 時間の「量」より「質(インパクト)」
学生時代のように毎日一緒にいる「時間の量」を確保するのは、社会人には不可能です。しかし、短期間でも強烈なインパクトのある体験を共有することで、距離は一気に縮まります。
例えば、参加者からはこんなエピソードが出ました。
- 旅先でのトラブルを一緒に乗り越えた人とは、数日間の出会いでも一生の友達になれる。
- サウナ(裸の付き合い)や合宿など、生活の基盤(寝食)を共にすると、「オキシトシン」が出るような安心感が生まれる。
ただ漫然と飲みに行くだけでは、関係は深まりません。非日常的な体験や、少しの「ハプニング」を共有することが、大人の友達作りには効果的です。
② 弱さや「カッコ悪い姿」を見せられるか
もう一つのポイントは「自己開示」です。
ある参加者は、学生時代にいじめっ子だった相手と、大人になってから飲みに行き、過去の「パンツを破られた話(!)」で大爆笑したというエピソードを披露してくれました。当時の辛い記憶も、時間が経ち、お互いが対等な立場で笑い話にできた時、それは「共有されたストーリー」へと昇華されます。
社会人はつい、「デキる自分」「ちゃんとした自分」を演じてしまいがちです。しかし、鎧を脱いで、カッコ悪い自分や弱さをさらけ出せた時、相手との関係は「利害関係(仲間)」を超えて「友達」へと近づくのかもしれません。
4. 結論:強制力のない場所で、どう動くか
対話の最後、議論は「意図的に環境を変えること」の重要性に着地しました。
学生時代のクラスのような「強制的なコミュニティ」がない今、私たちは自分で自分を「箱」に入れる必要があります。それは、毎週通う習い事かもしれないし、短期集中のプロジェクトかもしれないし、あるいは今回のような朝活・哲学カフェのような場所かもしれません。
参加者の気づき
「結局、待っていても誰も友達にはなってくれない。自分から『質の高い時間』を過ごせる場所に飛び込んでいくしかないと気づきました」
「友達を作ろう」と意気込んでアプリで出会うよりも、自分の好きなことや興味のあるプロジェクトに参加し(仲間になり)、そこで苦楽を共にする中で、結果的に気が合う人が残る(友達になる)。この順序が、社会人にとっての最適解なのかもしれません。
まとめ:サードプレイスから始めよう
社会人の友達作りは、確かに簡単ではありません。しかし、それは「不可能」なのではなく、学生時代とは「作り方」が変わっただけなのです。
- 利害のない「サードプレイス」を持つこと
- 共通の体験(インパクト)を共有すること
- 「仲間」から始めて、時間をかけて関係を育てること
もしあなたが今、職場と家の往復に息苦しさを感じているなら、まずは少しだけ早起きをして、いつもと違う場所に足を運んでみませんか?
私たちの開催する哲学カフェでは、肩書きや利害関係を脱ぎ捨てて、一人の人間として対話を楽しむ時間を大切にしています。ここで出会った誰かが、10年後のあなたの「親友」になっているかもしれません。


