「あなたは今、何かに不安を感じていますか?」

先日開催した哲学カフェのテーマは、まさにこの「不安」でした。朝の貴重な時間に集まってくださった参加者の皆さんと、「不安って何だろう?」「どうやって対処してる?」という率直な問いを囲みました。

「常に不安です」と話す方、一方で「あまり感じないかも」と話す方。感じ方は人それぞれですが、対話を進めるうちに、日常のささいな不安から、仕事や人生設計に関わる大きな不安まで、多くの共感と発見が生まれました。

この記事では、当日の哲学カフェで語られたリアルな声をもとに、私たちなりの「不安 対処法」のヒントや、不安の正体について探った対話の軌跡をお届けします。

日常に潜む「小さな不安」と「大きな不安」

対話は、参加者の皆さんが最近感じた「不安」のエピソードを共有することから始まりました。

鍵、スマホ…「もしも」の不安と経験の効果

「マンションのエレベーターの隙間に、家の鍵を落としそうになって、めちゃくちゃ不安になった」

そんな生々しい体験談が飛び出しました。特に印象的だったのは、その後の話です。

「実は以前、ゴミ出しの際に鍵を部屋に忘れて締め出されたことがあったんです。その時は一晩外で過ごすことになって本当に大変でした。でも、その経験があったからか、今回の『落としそう』な危機では、意外と冷静に対処できたんですよね」

また、別の参加者からは「人生で初めてスマホを商業施設のトイレに置き忘れ、血の気が引いた」という話も。支払いや連絡手段など、すべてがスマホに詰まっている現代ならではの不安です。

ここでの気づきは、「一度経験してしまえば、二回目はそれほど不安ではない」ということ。最悪の事態を一度乗り越えた経験そのものが、未来の不安に対する一種の「対処法」として機能しているのかもしれません。

仕事、キャリア…「未来」への不安の正体

日常のハプニング的な不安から一転、話題はより深く、人生の根幹に関わる不安へと移っていきました。

「仕事がこのままでいいのか、不安になる」
「人生設計を考えた時、今の選択が本当に理想の未来につながっているのか不安」

特に、「理想が高いからこそ不安になる」という意見には、多くの頷きがありました。現状維持(延長線上)なら、ある程度の結果は見えている。それは安心ではあるけれど、楽しくはない。かといって、全く違う方向(ステージアップかゼロか)に挑戦しようとすると、「うまくいかなかったらどうしよう」という強烈な不安が襲ってくる…。

この「未来への不安」は、単なるネガティブな感情ではなく、「より良く生きたい」という希望やポジティブなエネルギーの裏返しでもあるようです。だからこそ、その対処法は単純ではありません。

不安との向き合い方:「哲学カフェ」で見えた多様な対処法

では、私たちはその厄介な「不安」とどう付き合っていけばいいのでしょうか。対話の中からは、三者三様の「不安 対処法」が見えてきました。

対処法①:「悩み切る」時間を決めるアプローチ

「不安や悩みにはリソース(容量)があると思う」と語ってくれた参加者がいました。

「悩むときは、もう悩み切る。例えば『この1時間半だけは徹底的に悩もう』と時間を決めて、その後はカモミールティーを飲んで強制的に寝る。中途半端に落ち込むから、いつまでも引きずってしまう。まとめて落ち込んじゃった方が、意外とスッキリ切り替われる」

これは、不安という感情から無理に目をそらすのではなく、むしろ真正面から受け入れ、意図的に消費し尽くすという、積極的な対処法です。悩む時間をあらかじめスケジュールに組み込んでしまうことで、他の時間を「不安に支配されない時間」として守る効果もありそうです。

対処法②:「認知行動療法」で視点を変える

「昔はすごく“気にしい”だったけど、ある本を読んで実践してから楽になった」という体験談も共有されました。それが「認知行動療法」の考え方です。

例えば、飲み会の翌日に「あんなこと言って、相手を傷つけたかもしれない…」と不安になる(いわゆる「一人反省会」)。これは多くの方が経験することかもしれません。

しかし、認知行動療法の視点では、それは「本当は存在しないかもしれないことについて考えている」状態です。

  • 相手が本当に傷ついているかは、相手にしか分からない。
  • 100%自分が悪いわけでも、100%相手が悪いわけでもない。
  • そもそも、自分と相手は「認知の歪み」を持っており、話が完全に噛み合わないのが前提。

こうした「認知の歪み」の概念を知るだけで、「まぁ、伝わらなくても仕方ないか」と、必要以上に自分を責めたり、相手に期待しすぎたりすることが減り、不安が軽減されるというのです。これは、人間関係の不安に対する強力な対処法になり得ます。

対処法③:「あえてストレスを経験する」という逆転の発想

これは参加者の知り合いの話として出た、非常に興味深いアプローチです。

「ストレス耐性を身につけるには、自分がより大きなストレスを経験すればいい。例えば、人前で絶対にやりたくないこと(例:カフェの真ん中で踊る)にあえてチャレンジする。それを経験すれば、たいていの不安は小さく見えるようになる」

これは、冒頭の「鍵をなくした経験」とも通じます。あえて(あるいは図らずも)困難な経験を積むことが、結果として不安を感じにくいタフなメンタルを作っていく、という考え方です。

対話で見えた「不安」の本質とは?

様々な対処法が語られる中で、対話は「そもそも不安とは何なのか?」という本質的な問いへと深まっていきました。

不安は「未来」にかかる感情か?「後悔」との違い

「一人反省会で感じるのは、不安というより『後悔』ではないか?」

鋭い指摘がありました。確かに、「あんなこと言わなければよかった」は過去への感情(後悔)です。では、不安とは?

「過去の行動(後悔)によって、未来の人間関係が悪くなるんじゃないかと考える。だから、やはり不安は未来にかかる感情だと思う」

マーケティングの世界では、「未来への不安」か「現状への不満」を煽ることが行動喚起につながると言われるそうです。私たちは、まだ起こってもいない「未来」に対して、様々なネガティブな予測を立てることで「不安」を感じているのかもしれません。

自分と「真逆の人」との対話がもたらす自己理解

対話の中で、「自分は感情が先で、後から論理を組み立てるタイプ。でも、友人には論理が先で、感情を後から出すタイプがいる」という話が出ました。

二人は見ている世界が全く違い、何一つ噛み合わない。でも、だからこそ面白い。

あまりにも反対側の人と話していると、逆に自分の形が見えてくる。自分一人では、自分がどういう考え方をする人間なのか分からない。全く考えの違う人こそが、自分を知るカギになる」

これは、まさに哲学カフェの価値そのものです。自分とは異なる他者の視点に触れることで、自分の「不安」の源泉や、自分が何を大切にしているのかが浮き彫りになります。他者との対話は、最高の自己理解ツールであり、結果として不安の輪郭をはっきりさせる手助けとなるのです。

まとめ:不安を感じる自分を認めること

あっという間の対話の時間。最後に、「不安は自分に自信がないことから来るのかも」という率直な自己分析も聞かれました。

不安には、行動を慎重にさせ、自分を見直すきっかけをくれるという「良い面」と、行動を停止させ、パフォーマンスを下げてしまう「悪い面」があります。

今回の哲学カフェで明確な「唯一の不安 対処法」が見つかったわけではありません。しかし、多様な向き合い方を知ることができました。

  • 不安の正体は「未来への予測」かもしれないこと。
  • 対処法には「経験」「認知の転換」「時間管理」など様々なアプローチがあること。
  • そして何より、他者との対話が自分自身の不安の形を教えてくれること。

「不安を感じる自分も含めて、認めて愛することができれば素晴らしい」。対話の最後に出てきたこの言葉が、今回の哲学カフェのすべてを物語っていたように思います。

ご参加いただいた皆様、深い対話をありがとうございました。次回の哲学カフェでも、また新たな「問い」に出会えることを楽しみにしています。