先日開催された哲学カフェでは、参加者の皆さんとの自由な対話を通じて、「ストレス」「幸福」「リーダーシップ」といった現代社会における重要なテーマについて深く掘り下げました。一つのテーマから派生して、様々な視点や経験が共有され、予定されていた枠を超えた豊かな議論が展開されましたので、その一部をご報告します。
現代社会における「ストレス」の様相
最初のテーマである「ストレス」について、参加者からは多様な経験が語られました。
具体的なストレスの原因としては、満員電車での通勤が挙げられました。以前は当たり前だと感じていた通勤も、リモートワークを経験した後にたまに出社すると、それ自体が異様な感覚となり、ストレスや疲労を感じるようになったという声がありました。朝の生産性が高いはずの時間を通勤電車で消耗してしまうことへの言及もありました。
また、環境の変化も大きなストレス要因として挙げられました。引っ越しや新しい職場、仕事のやり方の変化など、慣れない環境に適応するためにエネルギーを使うことがストレスにつながるという意見が出ました。思い通りにならない状況 や、今まで意識せずにできていたことができなくなること、気を使わなくてよかったことに気を使わなければならなくなること などもストレスとして認識されるようです。
人間関係もストレスの原因となりうるという話が出ました。特に、営業など人と関わることが多い仕事では、それが疲労につながることがあるようです。職場の上司との関係性にストレスを感じ、適用障害になった経験も共有されました。
ストレスへの対処法としては、様々な方法が共有されました。一人でカフェに行き、読書をしたり考えたことをメモしたりする時間を持つことで、気持ちが落ち着くという方もいました。また、手紙を書くことがストレス解消に効果的だという経験談も共有されました。怒りやイライラを感じている相手に対しても、感謝の気持ちを書き出そうとすることで、自分の気持ちが落ち着き、相手の良い面を見つけられるようになるという心理的な効果があるようです。これは、相手に渡さなくても書くだけで効果があるかもしれないという示唆に富む意見でした。引っ越しを繰り返す中で、新しい環境に「慣れる」ことでストレスを感じにくくなるという経験も語られました。ストレスを客観視することも、軽減につながる可能性が議論されました。
「幸福」の多様な捉え方
次に、「幸福はどこにあるのか」という問いから「幸福」についての議論が始まりました。幸福の場所は外から来るものもあれば、内から来るものもあるという興味深い提起がありました。
幸福を感じる瞬間として、参加者からは多様な例が挙げられました。美味しいものを食べる時、新しい趣味に没頭する時(例:コーヒーを自分で淹れる)、新しい縁ができること、人との繋がりを感じる時、知的好奇心が満たされる時、自分が予想した通りに物事が運んだ時、応援している対象がある時、そして人の役に立っていると感じる時 などです。特に日本の国民性として、美味しいものを食べた時に幸福を感じやすいという調査結果も紹介されました。
幸福を脳内の伝達物質の観点から分類する意見も出ました。ドーパミン的幸福は達成感や美味しい食事などによる瞬間的で高揚感のある幸福、セロトニン的幸福はリラックスした状態での幸福、オキシトシン的幸福は人との繋がりなどによる持続性のある幸福と整理されました。これらのバランスが重要であるという指摘もありました。
また、幸福の捉え方として「幸福の資本論」という書籍の内容が紹介されました。この考え方では、幸福を構成する要素として「人的資本」(稼ぐ力や才能)、「社会的資本」(人間関係)、「金銭資本」(お金)の三つがあり、これらをバランス良く持つ人が幸福である可能性が示唆されました。
哲学的な視点からは、幸福は「手段になり得ないもの」、つまり全ての目的の最終形態であるという考え方が紹介されました。なぜ?なぜ?と問いを重ねていくと、最終的には幸福に行き着くため、「なぜ幸福になりたいの?」という問いは行き止まりになる、という視点です。また、幸福は「時間」であるという捉え方も示されました。
「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」
ストレスや組織に関する話題から派生して、「リーダーシップ」についての議論も行われました。
人をまとめたり、企画を進めたりする「まとめ役」は疲れるという経験談が出ました。特に、大人だから、リーダーだから、という期待に応えようとすることがストレスにつながるという意見もありました。
リーダーシップには多様な形があるという話が出ました。カリスマ性で人々を引っ張るタイプだけでなく、メンバーをサポートしながら進むタイプ、あるいは時には嫌われることでかえって集団を団結させるようなリーダーシップもある、という興味深い視点が共有されました。ある参加者からは、カリスマ性があるから人がついてくるのではなく、人を束ねて結果を出した後にカリスマと呼ばれるようになるのではないかという考え方が示されました。
また、リーダーシップを発揮するための大前提として、「成果主義」が重要であるという意見が出ました。成果を出してこそリーダーであり、成果を出しても出さなくてもリーダーでいられるのであれば、それは単なるまとめ役になってしまう、という鋭い指摘がありました。
さらに、リーダーシップだけでなく「フォロワーシップ」の重要性も議論されました。会議などで積極的に質問する責任など、フォロワーとしての役割を果たすことが、組織全体の改善につながるという意見が出ました。良いリーダーになるためには、まず良いフォロワーになる必要があるという考え方も紹介されました。会議で発言せず後から不満を言う人は「フォロワー」ではなく「メンバー」であり、フォロワーは積極的に関わろうとする姿勢が必要である、というメンバーとフォロワーの違いに関する議論も行われました。
議論から派生した興味深い視点
メインテーマ以外にも、様々な興味深い話が展開されました。
人生における「選択」は「片道切符」の連続であるという視点です。私たちは常に何かを選択し、それによって選ばなかった道は失われます。転職なども片道切符のような性質があるという意見が出ました。火星への片道切符の移住希望者が多数いたという話から、「そこに幸福があるのだろうか」という問いが生まれました。
また、「大人」の定義についても議論が及びました。客観的に自分自身や状況を見られること、そして責任を取れることが大人の一つの側面ではないかという意見が出ました。子供の頃の引っ越しはストレスが大きかったが、大人になると慣れるという経験談から、環境変化への適応力やストレスへの向き合い方が年齢によって異なる可能性も示唆されました。
職場で働くことにおける幸福についても話が広がりました。教育業界では、生徒の役に立っていることを実感しやすい点が幸福につながる可能性があるという意見が出ました。一方、物流業界のようなインフラを支える仕事は、普段は当たり前と思われがちで感謝されにくいが、問題が発生した時に初めてその重要性が認識されるという特性があり、そこに難しさもあるという意見も共有されました。
対話を通じて得られた気づき
今回の哲学カフェでは、「ストレス」「幸福」「リーダーシップ」というそれぞれ深いテーマが、参加者間の自由な対話によって有機的に繋がり、予期せぬ方向へと議論が広がっていきました。一つの問いに対する答えが一つではなく、人それぞれの経験や価値観によって多様であることを改めて実感する機会となりました。日常の中にあるストレスや幸福に目を向け、リーダーシップやフォロワーシップといった関係性のあり方を考えることは、より良い生き方や働き方を模索する上で重要な視点であると言えるでしょう。
このような対話の場を通じて、多様な価値観に触れ、自分自身の考えを深めることの面白さを感じていただけたなら幸いです。
今後も哲学カフェを企画してまいりますので、ご興味のある方はぜひご参加ください。